コンセプトは、さまざまなアイデアを無限に柔軟に表現するためのクリエイティブツールです。 iOS、Windows、Androidに対応しています。

コンセプトアプリの開発ストーリー 〜クリエイティブ開発10年の歩み〜

コンセプトのiOS版、Windows版、Android版の誕生秘話

小さなアイデアが産声をあげてから10年。おかげさまでコンセプトは大きな節目を迎えることができました。


無限キャンバスのクリエイティブツール、コンセプト (Concepts) の最初のバージョンを公開してから10年が経ちました。

すべてはTopHatchの創業者Ben Merrillのイマジネーションから始まりました――紙の端を気にせずどこまで描ける。落書きが思考とともに成長し、すばらしいアイデアが開花する。失敗した絵を新しいページで描き直さずに、指先ひとつで手直しできる――そんな予感めいたアイデアでした。

システムデザイナーでありロボットエンジニアでもあったBenは、デザインという活動を、面倒な業務ではなく、クリエイティブなストーリーにしたいと考えました。自分が理想とするツールの最初のプロトタイプを初代iPad用に作成したところ、その初期コンセプトがデザインコンペで優勝。それから10年、モバイルゲーム開発者兼共同創業者のDavid Brittainとともに、スマートでインタラクティブなデザインツールを目指し、コンセプトの開発を続けています。コンセプトは現在、マルチプラットフォーム対応の無限キャンバス創作ツールとして、世界中のデザイナー、イラストレーター、ビジュアルシンカーなどに愛用され、柔軟なベクター形式のスケッチやアイデア考案に活用されています。

今回は、コンセプトが2012年に誕生した経緯と、この10年間で遂げた進化を簡単にご紹介したいと思います。


Concepts 1

当時のデザイン業務といえば、デスクトップが主流。CADやAdobeはパワフルでも使いこなすのが大変なツールでした。このときBenは、自分のアイデアを形にできる有能な「デザインスケッチブック」を模索していました。

Appleがリリースした持ち運び可能なタッチ式タブレットは、Benの直感的なクリエイティビティに火をつけました。手と紙 (画面) が再び触れ合い、マウスを介在しないクリエイティブ・ジャーニーが可能になったのです。BenはiPadのインターフェース専用に構築を始めました。人体力学や柔軟な構造を持つ輪ゴムなどの物体からインスピレーションを得て、ハンドジェスチャーと描画動作を結びつけたのです。

コンセプト 1.0 for iPadを公開。バージョン 1では、片手を画面に置いてからもう片方の手で描画する、ジェスチャー式の精密モードを模索しました。

Benは、ベクトル数学とゲーム開発の専門家であるDavidとタッグを組み、ジェスチャー操作を中心とした、ベクター形式のインタラクティブな描画システムの開発に着手します。ズームや編集をしても鮮明なベクター形式で描画することで、アイデアをスケッチしたり、大きなフレームワークを検討したり、細部に没頭したり、さまざまな制作ピースを他のアプリやデザイナーと共有したりと、ユーザーは常に目の前にある創作サイクルに集中できるようになりました。

バージョン 1.5では、指を使ってiPadでさまざまな図形を正確に描ける「図形定規」が登場。当時はまだ使えるタッチペンがありませんでした。

BenとDavidは話し合いを重ねる中で、心底打ち込めるクリエイティブ体験を発見しただけでなく、強固なパートナー関係も築きあげ、グローバルチームの立ち上げや、スマートアプリケーションの構築を開始しました。


Concepts 2

コピックのカラーホイールは、デザインパレットが際立つ遊び心にあふれた回転式のカラーアニメーションに。

Benはコピックのカラーホイールに注目します。スペクトラムが美しく、プロフェッショナルなデジタル作品を制作したいクリエイターのニーズに応える実用的なソリューションとしても魅力的でした。Too Corporationから同社のカラーホイールの使用許諾を得て、Benがデザインした回転式の遊び心あるホイールは、今でもアプリのハイライトになっています。不動の人気を誇るコピックマーカーのデジタル版として、コピックのカラーホイールを共有する機会に恵まれたことは大変光栄なことでした。

このページいっぱいの落書きは、デジタルマーカーが表現できるリアルな色合いやムラを披露しています。

カラーホイールと同時に、チームは補完的なデジタルコピックマーカーも開発しました。これは、実際のテクスチャを備えたコンセプト初のベクターブラシでした。テクスチャはクリエイティブ制作をワクワクさせる要素です。しかし、それまでのデザインアプリケーションでは、ベクターは常に厳密な線データで表現され、数学的で近寄り難く、心躍る存在ではありませんでした。Benは、アナログツールのような使い心地の良さを、コンセプトのクリエイティブ体験でも実現させようとしていました。そこで、ラスター形式のリアルなテクスチャでベクター線を挟み込み、ツールの見た目や感触、交わりが自然な、独自のツールセットを作成しました。

モバイルデザインアプリをスケッチブック風にするため、Benは積み重ねた画用紙をスワイプできるギャラリーをデザインしました。このアプリは、2013年に「Tabby Awards」と「Apple Best」を受賞しました。


Concepts 3

2015年11月、Appleが初代iPad ProとApple Pencilを発売しました。これは、プロフェッショナルなプロダクティビティツールを制作する私たちにとって、とても大きな足掛かりとなりました。コンセプトのビジョンを実現するテクノロジーがやっと登場した、という思いでした。

バージョン 3のコンセプトでは、iPadを使った作業の可能性を追求し、ジェスチャー操作によるベクターの能力を極限まで伸ばしました。ピクセル形式では不可能だった描画後の編集を、ベクターが可能にしたことで、ユーザーはスケッチをインタラクティブに創作できる大きな自由を手に入れました。「ストローク調整」(現在の「セレクション」) では、指で線をつまんで移動したり、ツール、色、サイズ、滑らかさを変更したり、アイデアの進化やプロジェクトの仕様変更に合わせて、描いたものを数ヶ月後に変更したりできるようになりました。

Four Ways to Draw a Cube - この動画はBenが作成し、コンセプトでオブジェクトを描くさまざまな方法を紹介しています。どの方法を選んでも正解です。

この編集能力は、クリエイティブ活動の悩みを解消しました。私たちのもとに、ユーザーから「やっと失敗を恐れずに描けるようになった」という喜びの声が届くようになりました。Benが作成した動画「Four Ways to Draw a Cube (立方体を描く4つの方法)」では、アイデアを楽しく形にする方法を紹介しています。フリーハンド、直線ガイド、編集、スムージング、どの方法を選んでも構いません。すべてアイデアを紙に描き出すのにふさわしい方法です。

またバージョン 3では「無限キャンバス」を初リリースしました。これはコンセプトのトレードマークのひとつで、Benが目指す紙以上のスケッチツールにとって必需品です。毎回新しい紙で描いていたら、アイデアをどこまでも追いかけていくことができますか?紙の端にぶつかる必要って、本当にあるのでしょうか?「無限」というアイデアによって、創造性の新しい次元が開きました。

Appleで紹介されたこの画像は、iPadで大規模なデザインプロジェクト作成するために、設計寸法などの細部に集中する方法を紹介しています。


Concepts 4

コンセプト 4では、効率性、汎用性、接続性を高めるために、デザインエクスペリエンスの向上に専念しました。私たちのチームは、デザイン制作を高速化するため、ステッカーのように使える編集可能な「オブジェクトライブラリ」 を作成しました。また、それまではデスクトップソフトウェアでしか利用できなかった「高度な変形」機能をジェスチャー方式で開発しました。さらに、さまざまなファイル形式の書き出しオプションを追加し、デザイナーがモバイル端末で作成したスケッチをAutodeskやAdobeなどのデザインソフトに取り込めるようにしました。

バージョン 4.2 - 新しい「オブジェクトライブラリ」は、既成のオブジェクトをキャンバスにドラッグ&ドロップして作業を効率化。コンセプトは、2016年に2度目の「Apple Best」を受賞しました。

また、プロ仕様のブラシやツールの開発にも力を入れました。すべて完全に編集可能なので、建築家やイラストレーターのプロフェッショナルな制作業務に活用されました。「マーカー」の作成と同じように、従来のアナログツールを見本にして「ソフト鉛筆」、「ハード鉛筆」、「ソフトマスク」、「ハードマスク」、混色可能な「水彩」ブラシなど、質感豊かなツールを作成しました。いずれも、それまでベクターには存在しなかったツールです。

バージョン 4.5 - オーガニックなベクターの水彩ブラシは、同じレイヤーなら混色、別のレイヤーなら重ね塗りができます。水彩ブラシは建築家にとって必須のデザインツールで、スケッチを描いて、そのままアプリでプロジェクトをクライアントに提示できるようになりました。

これらの開発への取り組みには、2つの原動力がありました。1つ目は、クリエイターからのフィードバックです。日々アプリを使い、目的を達成するために何が必要かを分かっている人たちです。このような日々の会話は貴重な機会として受け止めており、チーム全員で共有してユーザーや市場の理解を深める参考にさせていただいております。みなさまからの貴重なご意見は、私たちのアプリ開発に不可欠な財産であり、本当に感謝いたします。

2つ目の原動力は、Appleの最新テクノロジーの能力をとことん追求したいという想いです。私たちはデベロッパーとして、事業継続のために最新アプリやテクノロジーを柔軟に取り入れつつも、差別化のために最先端かつ他社には真似できないクリエイティブツールを創り出したい、という意気込みを持っています。

バージョン 4.6 - 新しい鉛筆でスケッチ。ここでも、デジタル端末のオーガニックなスケッチ体験を向上させました。


Concepts 5

コンセプト 5では、コンセプトを計画的にアップグレードし、モジュラー式の円形ツールホイールの追加や、ワークフローの改善を行いました。このリリースは、フィードバックに基づくものであり、またデザインの未来を感じるような、今どきの見た目に刷新したいというBenの願いを反映したものでもありました。

ツールホイール - 最初のスケッチから最終のアプリデザインへ。

円形のツールホイールは、半数のユーザーには好評でしたが、 残りの半数からは、これまでの操作方法や両手で描く習慣が身についていたせいか、あわてて元のツールバーに戻してほしいと頼まれました。そこでリリースを一旦中止し、デザイン変更したツールバーを追加して、両方の選択肢を提供しました。

このようなリリースの進め方は、いつも私たちが心がけており、一番成功している方法です。必要なのは、ユーザーの声に耳を傾けることです。ユーザーの判断基準をもとに、クリエイティブ作業で起こる摩擦を解消し、より適切なツールを開発することができます。次に、開発内容をベータユーザーにテストしてもらい、コンセプトの安定性と使い心地をできるだけ高めた上で、一般向けにリリースしています。

バージョン 5.0 - 新登場の円形ツールホイール。みなさんおなじみのバージョンです。

コンセプト 5では、ユーザーが各自のクリエイティブ体験に合わせてカスタマイズできる取り組みを続けました。移動可能なメニューと並行して、絵の表現力を高めるさまざまなテクスチャツールを備えたブラシマーケットを追加しました。また、コンセプトで自作ブラシのライブラリを作成・共有できるように、汎用性の高いカスタムブラシエディターを開発しました (活用例にインテリア専門の建築家 Jessika Wendel が作成したインテリアデザイン向けのタイルブラシ集があります)。

バージョン 5.1 - アプリで描けるようになった新しいテクスチャの一例。コンセプトはアイデア出しやデザイン向けのアプリであることは変わりませんが、デザインプロセス全体でスケッチのクオリティが向上すると、クライアントにアイデアの提案や売り込みがしやすくなります。それに、独創的なテクスチャをいろいろと使ってアプリでお絵描きする時間がもっと楽しくなります。

また、チームはBenがアプリの初代バージョンから抱いていた夢もかなえました。それが「ナッジ」ツールです。このオリジナルツールは、描いた線を、まるで1本のひものように、キャンバス上でつついたり引っ張ったりして動かすことができます。これは、アプリの前提条件である柔軟な手書きスケッチに対応した、有機的なベクター編集のアプローチです。

ナッジツールの機能を実現するためのアイデアスケッチ。これはBenの長年のアイデアで、線をひものようにつついたり引っ張ったりできる理想的で有機的なインタラクションです。

バージョン 5.2 - 塗りつぶしストロークをナッジ中。「ナッジ」はコンセプト独自のツールです。この動画は、アイデアスケッチ向けにナッジの活用例を紹介しています。

ナッジツールに続き、さまざまな新機能が登場しました。参加者とデザインを共有できる「プレゼンテーションモード」、消しゴム・ベクター切断ツールの「スライス」、デザインエクスペリエンスを向上させる「グリッド編集」と「スナップ」機能、クリエイターがより簡単に、より自信を持ってデザイン制作できる「遠近グリッド」が追加されました。

デジタルクリエイティブ業界の方なら、これらの開発内容は、もはや当たり前の機能に感じるかもしれません。「はいはい、こんなの今さら当然ですよね」と思うかもしれません。でも実際には、入念な設計、構築、テストを経てやっと実現した、高度なエンジニアリングに裏打ちされた機能です。多くのアイデアや時間を費やさなければ、存在し得なかった技術です。私たちのアプリであれ、他社のリソースや企業努力であれ、世の中のテクノロジーが、ひとつひとつの決断によって少しずつ成長する様子を目の当たりにすると、謙虚な気持ちになると同時に、健闘を讃えたい気持ちになります。


Concepts for Windows & Android

コンセプト 5の人気が高まるにつれて、WindowsとAndroidのプラットフォーム向けにも開発してほしいという要望が多数届くようになりました。当時のハードウェアやプラットフォームのサポート環境を入念に調査し、初期投資を自己資金で調達して、Windows 10、Android & Chrome OS向けに小規模なスケッチ版 1.0を開発しました。

このバージョンは2018年末にリリースしました。それ以来、ユーザーの温かいご支援のおかげで、わずか3年で成熟したiOSアプリ版の4分の3相当の機能をこれらのプラットフォーム向けに開発することができました。今後の機能パリティロードマップはこちら、プラットフォーム別のロードマップはiOSWindowsAndroidで公開しています。

コンセプト for Android & Chrome OSの公開 - 基本的なスケッチパッケージを提供する最初のバージョンです。開発へのご支援に心より感謝いたします。みなさまの投票のおかげで、2019年に「Samsung Best Creative App」、 2021年に「Best of Google」を受賞しました。

これは「iOS版を他のプラットフォームに流用する」といった単純なプロジェクトではありませんでした。Appleと同様に、WindowsやAndroidにも独自のインテリジェントなエコシステムが存在するので、それぞれのプラットフォームやユーザーに合わせて調査や設計を行いたいと考えていました。ミスマッチなホットキーのせいで、クリエイティブ作業の流れが邪魔されるのはイヤですよね。直感的な操作をAppleのシステム専用に独自開発したように、WindowsとAndroidでもそれぞれフィードバックを取り入れ、ワークフローを追加し、コンセプトで最高のエクスペリエンスを提供できるよう努力しました。

コンセプト for Windows 10を公開。Surface Dial専用のインタラクティビティです。


Concepts 6 と今後の展望

今月は、iOS向けにコンセプト 6をリリース、WindowsとAndroid向けに補完的なアップデート、そしてコンセプト10周年を祝う月となりました。今回のリリースの予告をご覧になった方もいるかもしれませんが、主要ワークフローのアップデートやちょっとしたサプライズ、新しいロゴが登場するのでお楽しみに! また今月は、ケーキデザインを募集する「バースデースケッチチャレンジ」をThe Big Drawで開催しているので、ぜひご参加ください! 私たちのクリエイティブ・ジャーニーを祝福する、みなさまの独創的なケーキスケッチをお待ちしています!


私たちは、3つのプラットフォーム版をクロスプラットフォームのスケッチシステムに統合し、みなさまがアイデアやプロジェクト、ワークフロー、デバイスをシームレスに利用できる取り組みを進めています。今後は、要望の多いリクエストや最適化、ワークフローの改善など、さまざまな6.xのアップデートを予定しています。この先の10年も、これまでの10年のように、スマートなデザインソリューションを数多く提供し、みなさまの創造的なイノベーションに満ちた、明るい未来づくりに貢献できることを願っています。私たちもクリエイター仲間として、みなさまのスケッチ1枚1枚が世界を変えると信じています。

Benはといえば、コンセプトの設計をリードしつつ、これからも未来に生き続けます。彼はアプリを毎日使い、アプリだけでなく趣味のロボティック・システムのプロジェクトの構想も立てています。「僕の頭のアプリは5年先を行ってて、あればいいのにというバージョンは、トニー・スターク (映画『アイアンマン』の超天才発明家) じゃないと実現できないようなものなんだ。良いツールを作るには長い時間がかかるけど、僕たちは着実に前進してるよ」とBenは言います。

これまでの10年間にいただいたみなさまの温かいご支援に、この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます。長年にわたり貴重なご意見や助言をいただいたおかげで、無限クリエイティブツールの開発をここまで続けていくことができました。

みなさまのクリエイティビティがさらに飛躍されることをチーム一同応援しております。

Ben、Davidおよびコンセプトチーム一同
 

写真、動画、アートワーク、文章のクレジットはTopHatchのConcepts Teamの所有物です。私たちのストーリーを共有していただき、ありがとうございます。


 

おすすめ記事

How We Develop Concepts (英語) - コンセプトの開発手法とそこにかける想いを語ります。

The Concepts Roadmap (英語) - 現在進行中または最近達成した開発目標をリストで見やすくまとめました。ページ上部でご利用のプラットフォームに切り替えてご覧ください。

The Big Draw and Concepts Partnership (英語) - コンセプトとThe Big Drawとの出会い、そして絵を描くことやクリエイティブ思考で世界にポジティブインパクトをもたらす取り組みを紹介します。