一流ケーキ職人によるデザインとデリシャスの出会い

インタビュー: マディソン・リー (Madison Lee)

ケーキ職人のマディソン・リーさんは、iPad Proを活用して至高のケーキレシピとデザインを考案し、世界に一つだけのオリジナルケーキを制作しています。

 


私の仕事は、お二人の想いやお互いへの気持ちを理解し、お二人の結婚式で、お二人らしさを表現する作品に仕上げることです。チャレンジングな仕事ではありますが、お二人の愛の語り手として関わることができることに、この上ないやりがいを感じます。


 

初めまして、私はケーキ職人のマディソン・リーです。アーティストとして、また経営者としてニューヨークでMadison Lee’s Cakesというお店を営んでいます。「好きなことを仕事にできるなら、生涯、1日たりとも働かずにすむだろう」ということわざがありますが、 これは、まさに私のことです。おかげさまで、みなさまの結婚式や一生に一度の特別な日のために、スイーツというかたちで、食べられる芸術作品の制作に打ち込む日々を送ることができています。

白樺の樹皮から得たコンセプトは、Societe Culinaire Philanthropiqueからブルーリボンを、Culinary Institute of Americaから料理の素晴らしさを称えるRevere bowlを受賞

 

ケーキ作りにおいて、ケーキ職人の創作プロセスとはどのようなものかを教えてください。

ケーキ職人として、またアーティストとして、私の創作プロセスにはケーキの内側と外側という二つの側面があります。内側には美味しいものを、外側には楽しいものを作るわけですね。

ケーキの中身については、フレーバーを際立たせることにこだわっています。慣れ親しんだ味に、ちょっとした意外性を加えて、より味わい深い体験をしてもらいたいと思っています。例えば、数年前に考案した「Cherry to My Yuzu」というレシピでは、おなじみのピーナッツバター&ジャムサンドにひねりを加えて、アーモンドバター、チェリージャム、塩味のローストアーモンド、そして柚子風味のバタークリームを使ったアーモンドケーキを作りました。柚子は、グレープフルーツとライムを掛け合わせたような日本の果実で、アーモンドとチェリーの風味を一段と際立たせてくれます。さわやかな風味を感じつつも、ピーナッツジャムサンドの懐かしい味が記憶によみがえります。食べながら自然と笑顔になる、そんなケーキですね。このような喜びを、フレーバーを通じて新郎新婦様にお届けできるように努力しています。

ケーキの層はミリ単位でカットされ、すべての層に完璧が求められる

ケーキの外側は、自己表現の場ではありません。お二人についてよく知ることが必要です。以前お会いしたカップルは、ベルギーの古都、ブルージュでのプロポーズについてお話ししてくださいました。新郎様は、街並みのあまりに美しさに、その場でひざまずいてプロポーズせずにはいられなかったそうです。というわけで、お二人のケーキは、ブルージュの広場の中心にあるベルタワーをイメージしたものになりました。ウェディングケーキは、単なる披露宴のデザートではありません。むしろ、その晴れの日を迎えるに至った、お二人のストーリーの一編を物語る存在なのです。

お二人の馴れ初めや大切な思い出については、びっくりするようなエピソードを披露するカップルもいれば、シンプルな出来事を語るカップルもいます。私の仕事は、お二人の想いやお互いへの気持ちを理解し、それをお二人の結婚式で、お二人らしさを表現する作品に仕上げることです。チャレンジングな仕事ではありますが、お二人の愛の語り手として関わることができることに、この上ないやりがいを感じます。

新郎新婦のケーキカットを待つ、完成したケーキとシュガーフラワーのアレンジメント

 

ご自身のためにケーキをデザインしたことはありますか? ご自分用のケーキは、どんなデザインやフレーバーになるでしょうか?

自分のためにケーキをデザインするのは、ほろ苦いものですね。私にとっては、お二人のストーリーを形にするという挑戦が、創作過程の楽しみでもあるんです。なので、自分のために何かをデザインしようとすると、自然の美しさや誰かの作品など、まず何かに刺激を受けたり、感動してからでないとだめなんです。

自分のためにデザインすることの長所は、誰からも指図されたり制約されないことですね。こんなときは、シュガーアートの限界に挑戦するチャンスです。私のスタジオにあるディスプレイ用のケーキは、ほとんどが自分のためだけに考案したものです。中には、失敗したり、新しい技術を試したりして出来上がったものもありますが、そんなケーキには命が宿ります。

フレーバー作りに関しては、全く別の話になります。私はもちろんケーキが大好きで、 毎日食べてます。でも、さすがに毎日同じものを食べ続けるのはしんどいわけです。そのため、常にレシピに手を加え、新しいコンビネーションに挑戦しています。私は、デザートには塩味と酸味の組み合わせが必須だと思っています。甘味については、素材が主役であるべきだと考えています。ヨーロッパ産のバターやシングルオリジンのチョコレート、世界最高級のバニラなど、できる限り最高の素材を使っています。このような素材は、それぞれ独自のメロディーを奏でてくれます。余計な甘味を加えて、素材の風味を覆い隠す必要はありません。私の仕事は、素材の持つ自然な味を引き立てることであり、ここは自分の得意分野だと思っています。

素の自分は、ポテトチップスをチョコにひたして食べるような女性ですが、虫歯になりそうなほど不自然に甘いものは苦手です。あくまでも素材の良さを活かしたいと思っています。何でもとにかく甘くすればいいわけではありませんよね。

シュガーフラワーのワークショップでの指導風景

 

コンセプトに出会ったきっかけは何ですか? アプリの気に入っているところや、アイデアをデザインして売り込むために、アプリがどう役立っているかを教えてください。

まさかこの私が、方眼紙やマーカー、鉛筆を手放すなんて1ミリも思っていませんでした!それもテクノロジーを使うためになんて、想像してませんでした。とにかく機械オンチで、メッセージに返信するのもやっとなんです。ある日、遠方からお越しいただいた新郎新婦様とのお打ち合わせに遅刻しそうなときがありました。そのとき、車を運転していた管理部門のマネージャーが、高速で電気量販店の看板を目にしたらしく、 いきなり無茶な車線変更をして、私にクレジットカードを渡せと言うんです。気がついたら、iPad ProとApple Pencilを買わされていました。駐車場に戻ると、マネジャーがスマホ経由でインターネットに接続してくれました。当時はそんなことができることさえ知りませんでしたねぇ。

その後すぐに、新郎新婦様とビデオチャットしながら、「画面」にデザインを描いて、画像をスタジオに書き出して、それをスタッフに開いてもらって、お二人と一緒にリアルタイムで修正することができました。iPadとコンセプトによって、私がお客様に作品を提供する方法、そしてMadison Lee's Cakesのビジネス手法が変わりました。

 

お客様とのデザインに関する打ち合わせは、どのように行われるのでしょうか? お客様とケーキのために、どのような目標を設定していますか?

デザインの打ち合わせ日は、お茶やケーキを出したり、ケーキの立体モデルを組み立てたり、iPadでメモ取りやスケッチをしたりと、スタジオは大忙しです。いざコンセプトを開こうとしたときに、いつもスタイラスペンが行方不明になるわけですね (笑)。

冗談はさておき、打ち合わせは私にとって一番楽しみな日です。これは本当にクリエイティブなプロセスです。打ち合わせのスタート時点では、この先2時間で何が起こるのか、まったく予想がつきません。

ニューヨークのスタジオにて、発泡スチロールでタワーケーキの模型を制作中

発泡スチロールでケーキの立体模型を作るのは、新郎新婦様の参加意識を高める良い方法です。私は、あらゆるものを実際に目に見える形にしたいと思っています。

そして、触れることができるのも大事だと思っています。実際にケーキの隣に立ち、ケーキカットの練習をして、ケーキの大きさを実感することで、お二人の間に信頼関係が生まれるんですね。お二人の表情からも、「あぁ、これが私たちのウェディングケーキになるんだ!」と実感が湧いてくるのを読み取ることができます。このワクワク感を目にするができるのは嬉しいものです。模型を作り、その隣で写真撮影し、ケーキカットのリハーサルを終えた後は、テーブルに戻って打ち合わせを続けます。

コンセプトで新しいデザインをスケッチ中

ここでは、私のiPadとコンセプトが注目の的になります。コンセプトを開くと、たいていみなさんはiPadの大きさに興味を惹かれるようです。その次は、「すごい、そんなに早く描けるんですか!」と驚きのリアクションが返ってきます。私はまず、グリッドのマス目を素早く数えて、簡単な図形を重ねて行きます。基本的な土台が描けたら、レイヤーを加えていきます。

単純な四角形をケーキの層へと形づくりながら、雑談を通じて装花や招待状、テーマカラー、ウェディングドレスなど、結婚式の詳細をヒアリングします。これらの情報をすべて考慮して、コンセプトでケーキの色合いやフォルムを決めていきます。インスピレーションが湧いてきたら、ペンをアプリに戻してケーキを飾るシュガーフラワーのデッサンを始めたり、レース模様やテクスチャを加えたりと、お二人のセンスに合わせてコーディネートしていきます。

次のステップは色付けです。カラーホイールは一番人気がある機能で、みなさん初めて見たときは興味津々で、アプリについて質問攻めにされたりします。絵を描く作業は15分もあれば十分で、すべてお二人の目の前で描きあげることができます。iPadを持ち歩いて、コンセプトで描いたものをすぐにお見せできるところが、とても気に入っています。お客様のワクワク感が周囲にも伝わりますし、人を幸せにできるというのはこの上なく最高の気分です。

完成間近のデザインに色を重ねていく

 

コンセプトでケーキをデザインする方法を教えてください。デザインをスケッチするのにお気に入りの定番ツールは何ですか?

コンセプトは、方眼紙から無理なく移行できるデジタルツールでした。ケーキの寸法や比率を把握するために、私はグリッドのマス目を使っています。最初はいつも、紙に描くのと同じように鉛筆で描き始めます。縮尺に合わせて土台を描いたら、ディテールやパーソナリティを加えていきます。私はレイヤー機能の大ファンです。レイヤーのおかげで、簡単に素早く変更を加えることできます。花嫁様は、細かい部分で気が変わることがあるんですね。そんなときでもレイヤーがあると、一からやり直しせずにすみます。これは紙を使うアナログとの大きな違いですね。

私は水彩絵具の設定がとても気に入っています。昔は、手描きの水彩スケッチを額縁に入れてお客様に差し上げていました。本当に手間のかかる作業でしたが、 今ではあの重労働から解放されました。コンセプトを使うと、複雑で繊細なケーキのデザインを、まるで本物の絵筆を使っているような感覚で描くことができます。お客様もプリントアウトやデジタルデータでデザインを受け取ることができるので、お友達にも自慢しやすいですしね。

さまざまなレイヤーが見えるコンセプトで描いた2枚のスケッチ

もう一つの秀逸なツールは、ドットブラシですね。レース模様を実に美しく表現してくれます。実物のケーキではパイピングで表現するレースの柔らかさを、お二人に実感していただくことができます。コンセプトのブラシ設定がアップデートされたので、最近ではオイルパステルを使っています。このツールは、深みを重ねることができるところが気に入っています。平面のスケッチで立体感のある形を表現して、より繊細なディテールをお客様にお見せすることができるようになりました。

ウェディングケーキの制作では、お客様に選択肢を提供することもプロセスの一部です。その点でとても便利なのは、ケーキの土台を作って色合いや彩色を加えたあとに、それをコピーして、異なるディテールを加えた複数のデザイン案を同時に用意できることです。これは、お客様に価格帯の違いを説明するのに非常に役立っています。このような選択肢の提供が可能になったことで、私自身と会社の効率が飛躍的に向上しました。

ロイヤルアイシングでパイピングした装飾にカラーダストを乗せていく

 

デザインが決まったら、どのようにケーキを焼いたり組み立てたりするのですか?

お二人と私でデザインを決めた後は、同じスケッチを使って構造的に分解していきます。硬くて重たいケーキを食べたい人なんていませんよね。これはつまり、ふわふわでしっとりしたスポンジを何層も支えるためには、ケーキの内側に安定性と強度が必要だということです。そのための構造をチームに説明するために、スケッチにレイヤーをもう1枚追加します。

それからケーキを焼きます。焼きあがったケーキは、何段階もの工程を経て、結婚式当日で見るような形になるのですが、その工程はみなさんの想像以上に多いものです。

ケーキを彩るシュガーフラワーに最後の仕上げをほどこす

実際にケーキを組み立てる前にシュガーフラワーを作りますが、ときには数ヶ月前から用意することもあります。私たちのケーキは、すべて食べられる材料でできているので、花はすべて砂糖で作られています。シュガーフラワーは、花びら一枚一枚の内部にワイヤーをつけたり、最初は白い色で作り始めたりするので、完成までに何週間もかかります。花びらやめしべの一枚一枚に手作業で食用色素を加えると、やっと花に命が吹き込まれます。

ケーキはすべて世界に一つだけのオリジナル作品なので、この段階ではルールや限界はもはや存在しません。私は、アーティストとして、感じたままに創造するだけです。

さまざまなシュガーフラワーケーキに囲まれながら、1段目の微調整に集中し、すべての工程で完璧な精度を追求する

 

デザインストーリーを共有してくださったマディソン・リーさんとチームの皆様に感謝します。こちらの動画「Tasty: Made By Hand」では、マディソン・リーさんと、彼女のケーキ作りにかける熱い思いが、ウェディングケーキのデザイン、ベーキング、組み立て工程などを通じて詳しく紹介されています。

 

 


 


マディソン・リー (Madison Lee):  ケーキ職人。ニューヨークにある Madison Lee’s Cakesを経営。34歳にして、世界トップクラスのケーキアーティスト、そしてシュガーフラワー・エキスパートとしての地位を確立。Food Network, The Cooking Channel, Buzzfeed, The Today Show, Good Morning Americaの出演経験のほか、料理本や雑誌などの掲載多数。『Cake Masters Magazine』誌より、2020年の全米トップ10 ケーキアーティストに選ばれる。有名人や話題のイベント向けのケーキデザインも手がけ、味の確かさのみならず、圧倒的な芸術性で高い人気を誇る。

 

ヒーローイメージ: デザインの細部に微調整をほどこすマディソン・リー氏。花のすべてのパーツは砂糖細工で作られる。
カバーイメージ: フォンダンにほどこされた手描きのデザインと、繊細なシュガーフラワー。
インタビュー: Erica Christensen
翻訳: Wakana Nozaki


 

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