iPad Proと舞台美術デザイン

インタビュー: 舞台美術家 | ピーター・マッキントッシュ (Peter McKintosh)

舞台美術と衣装を手がけるPeter McKintosh氏が、ミュージカル「ファニーガール」のために、160点以上の作品をiPad Proで制作した過程を紹介します。

「ファニーガール」写真提供: Julien Benhamou
 


「舞台美術家としての私の仕事は、演劇の視覚的世界を創造することです。」



ピーター・マッキントッシュ - 私はロンドンを拠点に、舞台美術家として舞台装置と衣装デザインを手掛けています。演劇、ミュージカル、オペラなどのセットやコスチュームをデザインするのが仕事です。

若い頃は、劇場が持つ視覚的な芸術性に夢中でした。なんとかして「この世界に関わろう」と思っていましたが、具体的な進路はあいまいでした。実は、舞台装置と舞台衣装というのは、まったく異なる専門分野なんですね。私の場合、たまたま両方やっているのですが。このような掛け持ちキャリアはイギリスではかなり一般的ですが、アメリカやヨーロッパでは別々の専門分野とされることが多いので少数派のようです。舞台装置と衣装を一緒にデザインするのはとても楽しいですよ。双方を調和させることで、演劇やミュージカル、オペラが目指す完璧な「世界観」を創り出すことができるからです。

私は演劇学の学位を取得した後、名門ブリストル・オールド・ヴィック演劇学校で1年間学びました。その後、世界有数の劇場で活躍する著名な舞台美術家たちのもとで見習いとして働き、この時期に最も多くのことを学びました (とはいえ、この職業は一生勉強が必要で、そこに大きなやりがいも感じます)。かれこれ25年以上、自分の舞台のデザインを手掛けています。

「The 39 Steps」写真提供: Alastair Muir
 

舞台装置と衣装デザインのお仕事について教えてください。デザインをする上での目標、そして目標を実現するための創作プロセスはどのようなものですか?

舞台美術家としての私の仕事は、演劇の視覚的世界を創造することです。演出家との打ち合わせでは、作品の見せ方や感じさせ方を、方向性が見つかるまで何通りも検討します。これは「コンセプト」と呼べるかもしれませんね。

最初はいつも舞台セットのデザインから始めます。自分が創り出した世界観を理解した上で、そこに登場する人物に何を着せるかを考える必要があるからです。 このプロセスでは、場所や時代、人物などのリサーチから始めて、参考資料やコンセプトで描く初期のデザイン画を作成します。

それから、1/25のセットの白模型を作ります。同じものを何通りも作ることも、異なるものをたくさん作ることもあります。納得できるまで分析、熟考、テスト、除外する作業を重ね、出来上がったラフモデルを精巧な本模型へと仕上げていきます。

完成した本模型は図面化され (Vectorworksにお世話になっています)、製作会社に送られて、セットの製作や劇場への搬入が行われます。

「God of Carnage」の模型

衣装デザインは、役者たちが衣装作りに貢献してくれるので、より自然な制作プロセスになります。先ほどと同じように、リサーチや初期のデザイン画から着手して、(特に衣装が多い場合は) 登場人物の衣装ごとに特定のデザイン画を描き、世界観に一体感を持たせるようにしています。

ちょうどパリ公演の「ファニーガール」のデザインを終えたところで、2019年11月7日にマリニー劇場で開幕しました。ここでは160着の衣装が使われ、その大半は一から作られたものです。衣装のデザイン画は、登場人物の雰囲気や性格といった情報を、できるだけ詳しく制作側に伝える必要があります。デザイン画は、選定した生地やトリミングを添付して制作担当に送られ、衣装制作や役者とのフィッティングが行われます。

「ファニーガール」衣装コンセプトと完成作品
 

デザインや製作・制作のプロセスは終始大掛かりなものになると思いますが、大勢のメンバーが関わる場合は特に大変ですよね。どのような流れで進めているのでしょうか?

どちらの分野も、大勢の人が携わっています。私のスタジオには、模型制作や製図を担当するアシスタントがいます。セットのデザインが決まると、製作責任者が製作を管理し、必要に応じて複数の業者に発注することもあります。それから塗装や装飾担当の手を経て、劇場に運ばれます。さらに、芝居に必要な小道具や家具も多数あり、これを担当するのが小道具管理者、そして購買、調達、制作担当などのチームになります。

衣装制作のプロセスは、衣装管理者が担当します。生地やアクセサリーの見本探しや買い付けはもちろん、衣装制作担当者と連携して、衣装ごとの仕様確認や役者とのフィッティングも行います (すべての衣装を完璧に仕上げるために数回行うこともあります)。さらにウィッグやヘアメイク担当、着付師、舞台スタッフ、舞台監督なども関わります。いやぁ大変な仕事ですよね (笑)。

「ガイズ&ドールズ」写真提供: Johan Persson、照明効果: Peter McKintosh
 

アイデア出し、デザイン、コミュニケーションのために、どのようなツールを使っていますか? コンセプトをどのようにワークフローに取り入れていますか?

デザイン作成に関しては、いたって昔ながらの方法で、最初の考えを書きとめ、カードや木材、金属、プラスチックなど、手に入るもので模型を作っています。コンセプトをiPadで使う魅力は、私が行うほぼすべての作業にうまく馴染んでくれるところですね。「手描き」感覚のツールや手法が豊富なので、常に進化し続け、次々とアイデアを重ねていくような、「その場ですぐ」動く必要がある私の仕事にはぴったりです。ひとつのシーンをデザインし、その上に別のアイデアを重ね、さらに次のアイデアを…というように、選択肢を出し尽くすまで追求することができます。さらに、その気になれば描いたものを消して、一からやり直すこともできます。このやり方は模型の写真でよく使っていて、シーンの上に改良したアイデアを書き込んでいます。

また、これまでずっと紙ベースだった衣装のデザイン画を、コンセプトで描き始めるようになりました。レイヤーを変えるだけで色や形を簡単に変更できます。

「ファニーガール」初期のラフスケッチ

「ファニーガール」シーンスケッチ

「ファニーガール」完成コンセプト
 

クリエイティブな目標に取り組み、アイデアを実現するために、他のクリエイターと共有したい考え方はありますか?

目標達成のための道筋から外れないことです。自分が何を達成したいのかを知り、それがいかに困難に思えても、実現させる方法を見つけることです。コンセプトを使い始めた当初は、デジタルでスケッチするなんてとても大変なことのように思えましたし、今でもほぼ毎日、新しいやり方や改善方法を発見しています。コツは、自分に課した挑戦を楽しみ、新しい発見に出会うチャンスを楽しむことです。
 


 


ピーター・マッキントッシュ (Peter McKintosh):  ロンドンを拠点に舞台装置と衣装デザインを手掛ける舞台美術家。ローレンス・オリヴィエ賞受賞。世界各国でさまざまな演劇、ミュージカル、オペラのデザイン実績を持つ。ロンドンのウエストエンドで9年間上演された「The 39 Steps」のデザインは、ブロードウェーのトニー賞で「舞台装置デザイン賞」と「衣装デザイン賞」の両部門にノミネート。慈善団体「ノエル・カワード・アーカイブ・トラスト」のパトロンも務める。

https://www.petermckintosh.com/

https://en.wikipedia.org/wiki/Peter_McKintosh
 

カバー写真提供: Julien Benhamou
インタビュー: Erica Christensen
翻訳: Wakana Nozaki



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