アーバンスケッチで綴るスケッチ日記

インタビュー: デザイナー アミン・ザカリア (Amin Zakaria)

デザイナーのアミン・ザカリアさんが、アーバンスケッチに対する思いを語ります。

 


「秘訣は、自分が実際にその場にいるのを想像して、見えるものではなく感じるものを描くこと」



アミン・ザカリア -小さい頃から絵を描くのが好きでした。父親がホワイトボードに絶え間なく描きとめるスケッチにインスパイアされたんです。父は工学系の専門ですが、とても絵が上手な人でした。私は建築デザイン学校に進み、現在はマレーシアの建築コンサルタント会社で働いています。空いた時間はなるべく描く練習をするように心がけていて、会議の合間やランチタイム、寝る前などを使っています。絵を描くことは瞑想にも役立ちます。

私の彼女がアーバンスケッチャーで、混色の基礎から陰影の描き方、ワークフローや構図など、アーバンスケッチについて多くを学びました。それを自分のデジタルスケッチに取り入れて実験しています。

 

あなたのアーバンスケッチの画風は美しいですね。絵でどんなことを伝えようとしていますか?

私のノートは日記なんです。研究して学んだ内容もあれば、単に個人的な考えやデザインのアイデアもあります。下のスケッチでは、研究中のテーマを元に、いろいろな画法を使って描きました。

この絵は2018年のランドローバーのジャンボリーイベントで描きました。参加者たち
は、マレーシアの北半島から何百キロもかけて集まってきました。彼らは昼食の準備を
待ちながら、大きなキャンバステントの下で昼寝をしています。休憩やおしゃべりをす
る参加者たちの様子が見えますね。

2019年に手がけたショッピングモールプロジェクトのドローイングです。建設期間中
に、最終的な内装設計を視覚化するために描きました。

旅行していないときでも、何らかの練習方法を探しています。むかし撮った古い写真のコレクションから描いたり、優れたアーティストやオンラインレッスンをたくさん参考にしたりとか。ときにはGoogleのストリートビューでバーチャル旅行して、そこで見つけた面白そうな古い建物をスケッチすることもあります。秘訣は、自分が実際にその場にいるのを想像して、見えるものではなく感じるものを描くことです。絵の練習を楽しむ方法はいくらでもありますが、私の場合はこういったやり方です。

 

お気に入りの道具や画材はなんですか? コンセプトの好きなところや、あなたのスタイルとの相性を教えてください。

建築学生時代は、パースを早く描くためにドローイングペンやマーカーをよく使っていました。社会人になった今では、マーカーで実験するような時間が持てないので、建築のレイアウトやデザインの簡単な下書きには、パイロットの1.0 mm のような太字ペンを使っています。パソコンではワコムの Intuos も使っています。

iPadは、デザインのアイデアや考えを書き留めるのに最高の媒体ですね。2016年にはiPad Proを持ってたんですけど、盗まれてしまって(笑)。今はiPad miniとAdonit Pixelのスタイラスペンを愛用しています。コンセプトのアプリを見つけたときは、ツールのオプションやレイアウト、機能の充実ぶりに感動しましたね。このアプリは、あらゆるデザイナー (ファッション、プロダクトデザイン、建築、インテリアなど) に向いていると思います。

コンセプトの無限大のキャンバスは、デザインの探究やアイデアのブレインストーミングをするのに最適です。無限の作業スペースを手にするようなものですからね。でもたまには、自分でフレームワークを決めて、その中で絵を作成したい時もあります (Adobe Illustratorとよく似た環境です)。その枠内で描く必要があるわけでなく、比率と構図の感覚がつかみやすくなるからです。

これはペンとマーカーを使って短時間でスケッチしたものです。建築家やデザイナーに
とっては、マスタープランや設計計画のデザイン研究が手早くできる便利な方法だと思います。

 

アーバンスケッチの作成手順を教えてください。

私のストロークはいつもごちゃごちゃなんです。まず1枚のレイーヤに、不透明度の低い赤鉛筆で、アイデアを大まかに下書きすることから始めます。本当にざっくりしたラフスケッチなんですけど、ここでの目的は、正確なパース線と消失点を描き出して、スケールや比率、全体の構造、暗部を理解することです。

次のステップは、黒いペン (0.3/0.4 mm) で墨入れしていきます。このステップは、先に描いた下絵を土台にして、線幅をコントロールするのに役立ちます。この初期段階では線の太さに要注意です。ハッチングは細い線 (0.2 mm)、全体の輪郭は太い線 (0.6 mm) を使うといいでしょう。私はキャンバスの背景色に、薄茶色の紙のようなトーン (コピックのW0) をよく使っています。


次にベースカラーから塗り始めて、暗いトーンの色を混ぜていきます。私は暗い色を塗る前に、明るいトーンから塗り始めます。色の構成にも、比率が求められることを忘れないでください。比率を理解するには、たくさん失敗してそこから学ぶことが必要です。

スクリーンショットを見て分かるように、私のレイヤーはペン、樹木、色、鉛筆、背景といった構成要素をもとに設定されています。「ペン」と「色」のレイヤーは常に分けています。「樹木」のレイヤーを分けているのは、この絵では樹木の描き方を実験するのが目的だったからです。最終段階で不透明度を調整しつづけることができるように、空と背景も別々のレイヤーに分けています。そうすることで、全体に奥行き感が生まれ、絵の題材がより魅力的になります。

そして、こちらが最終版です。

 

コンセプトを使ってアーバンスケッチを描くためのコツやテクニックがありますか? お気に入りのツールやワークフローも教えてください。

コンセプトのお気に入りツールTOP3は、鉛筆、ペン、塗りつぶしツールです。自分のスタイルに合うように、ペンのサイズは実物どおりにカスタマイズしてます (0.2、0.3、0.4、0.6 mm)。「塗りつぶし」ツールは手早く色を塗るのに便利です。私の絵の中には、最終的に色のコラージュのような仕上がりになるものもあって面白いです。

でも、アプリのツールは常にいろいろ試していますよ。現在は、建築や内装設計で用いるマーカーの効果が面白いなと思っています。シンプルな道具が傑作を生み出す能力に、ずっと興味を持っていましたからね。

ときには、時間とツールを制限して描く実験をしています。私は、クリエイティビティは限られたリソースから生まれると信じています。でも私のテクニックやアプローチは、他のアーティストとは違うかもしれませんよね。私からの唯一のアドバイスは、ツールの設定 (レイヤー、ブラシサイズ、スムージング、不透明度など) にあまり圧倒されないことです。とりあえず鉛筆を手に取って何か描いてみること。自分に合った設定やプリセットは、いずれ見つかりますよ。


この2枚の絵は私の実験例で、ペンと塗りつぶしツールを使い、白と黒だけで描きました。この練習は、線形・平面要素、光と影、スケールと比率など、建築デザイン学校時代に学んだ内容とよく似ています。明度などの絵の基本に立ち返ることを恐れてはいけません。肩の力を抜いて、楽しむことを忘れずに描きましょう!

「論理はあなたをA地点からB地点まで連れて行ってくれるだろう、想像力はあなたを
どこにでも連れて行ってくれるだろう。」-アインシュタイン

肩の力を抜いて楽しむエピソードがあります。この絵は、7歳になる私の甥っ子が描いたものです。私は甥っ子に、お気に入りの家を描いてごらんと言ったんです。そしたら、お星様に囲まれた大きなクジラがペットに仲間入りしたので、まぁ驚きました。ここで教わったことはひとつ、肩の力を抜いて想像力を広げようということです。

 

他のアーティストたちに向けて、クリエイティビティを発揮するためのアドバイスはありますか?

絵の上達法はいくらでもあります。私もいろいろな絵のスタイルに興味を持っていました。さまざまな画風やオンラインレッスンにトライしましたよ。自分のスタイルに一番合ったものを見つけることが大切ですね。インスタグラムのアカウントにも載せていますが、私はこれまでたくさんの絵を描いてきました。中にはいまいちの作品もありますが、それでも投稿するのは、年月を重ねるにつれて自分がどこまで上達したかを確認するためです。昔の作品をよく振り返っては、絵の特定の要素や比率を見て、もっと改善できるだろうと自分に言い聞かせています。これは、常に継続的改善していくための心がけになっています。上達には練習あるのみです。最初の1万枚はうまく描けなくても、必ず目標に届くと信じましょう。とにかく描いて描いて、創造することをやめないでください。
 

 


 


アミン・ザカリア (Amin Zakaria): マレーシア拠点のデザイナーで、現在は建築コンサルタント会社に勤務。常に絵を描くことに興味を持ち、2015年にiPadでデジタルドローイングを始める。InstagramYouTubeに作品を投稿中。

 


インタビュー: Erica Christensen
翻訳: Wakana Nozaki


 

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