タイムレスなインテリアデザイン
大学でインテリアデザインを学ぶアンナ・エッシュバッハさんが、依頼主のために歴史的建築物の店舗をカルチャースペースに再生させるプロジェクトについて語ります。
「プロジェクトの肝は、新旧の融合調和です。歴史的な趣きや旧友のような心地良さを感じさせつつ、現代に息づく空間を作り出すことが求められました。」
アンナ・エッシュバッハ -初めまして、私の名前はアンナ・エッシュバッハです。オーストリアのザンクト・ペルテンにあるNew Design Universityの1年生で、インテリアデザイン学科を専攻しています。もともと、私は大工の訓練を受けていて、その後にインテリアデザイン専門の製図工になりました。
私の仕事に対する情熱は、親譲りだと思います。父親が大工だったので、小さい頃から木材やオーダーメイドの家具に囲まれて育ちました。子供の時から、この世界で働きたいと決めていたんです。インテリアデザイナーの助手をしていたときに、自分が進みたい道はインテリアデザインだとはっきりしました。
私にとって、インテリアデザインは個人の心理や個性と強く結びついています。私は、さまざまな人々に対して「その人の立場で考え」、その人と調和し、その人にとって最適なコンセプトを構築することが好きです。それぞれのコンセプトは、その人らしさを語り、その人の欲求や願望を語るものでなければなりません。空間には、個人の本質が反映されます。私が思うに、優れたインテリアデザインとはタイムレスなもの、少なくとも最小限の変更で再生できるものです。
あなたのデザインはどのようなスタイルですか? デザインする空間を思い描くとき、どのようなエレメントを好んで使っていますか?
私のスタイルはミニマリストだと思います。自分のスタイルは常に進化していますが、タイムレスなものでありつづけたいと思っています。繊細なディテールを加えることで、デザインが特別な存在になります。
私にとって、「デザインは機能に従う」という原則は絶対です。形態と機能は、互いに依存し合っています。機能的なデザインづくりができるようになったのは、大工の訓練で得た能力や知識のおかげです。大工時代の修行経験は、インテリアデザイナーとしてのキャリアを築くための確固たる基盤となりました。
「kost•bar」プロジェクトについてお聞かせください。このプロジェクトの目標は何でしたか?どのような雰囲気を目指し、それをどのようにデザインに落とし込んでいったのでしょうか?
kost•barプロジェクトは、製図工の教育訓練時代の卒業プロジェクトでした。与えられた課題はとても具体的で、かつてランジェリーショップだった店舗を、あらゆる年代が楽しめるカルチャーセンターに再生するというものでした。文化的な交流が活発に行われ、あらゆる年代の人々が集い、コーヒーやワインを飲みながら、オープンでクリエイティブな雰囲気に浸ることができる、そんな場所づくりが求められました。私の具体的な仕事は、収容人数が20人ほどの1階部分を、カフェ、ワインバー、ラウンジの3つのスペースに分けて改装することでした。
ここでの最大の課題は、スペースの分割でした。旧店舗はとても狭いうえ、歴史的に重要な建物でした。オーナー様にとっては、建物の風格を失わないことは絶対条件でした。古いものと新しいものを融合させ、歴史的建築物が持つ風格や魅力はそのままに、文化的な出会いの場としてのエネルギーや気さくな雰囲気を作り出すことが必要でした。
kost•barというネーミングには、いくつか意味があります。「kostbar」はドイツ語で「貴重な」という意味で、友人との貴重な時間や、貴重なアートなどの意味が込められています。また、ドイツ語で「味見する」という意味の「kosten」と、英語の「bar」を掛け合わせた意味も持っています。このように、いくつかのコンセプトをひとつにまとめた名前なんです。
Kost•barのコンセプトスケッチ
アイデアを発想し、それをデザインするまでの過程を教えてください。店舗をイメージするために、どのようなステップを踏んだのでしょうか?アイデアをどのようにデザインに落とし込み、そのデザインをどのように完成予想図に落とし込んだのでしょうか?
最初に、1階のレイアウトをいくつか提案するために、コンセプトを使ってApple PencilでiPad Proにアイデアを描きました。コンセプトのアプリは、私が助手をしていたインテリアデザイナーが見つけて紹介してくれたんです。とりあえずiPhoneでアプリを試したところ「これは使える!」と確信したので、2人ともiPadを購入しました。 コンセプトは、私たちの職業にとって最適なツールだと思います。今では他の学生も使うようになりました、私が紹介したんですけどね。私の絵を見て「これどうやって描いたの?」って聞かれましたよ。
提案1と提案2。コンセプトを使い、Apple PencilとiPad Proでレイアウトを作成。
提案3と提案4
提案5と提案6
提示した6つの間取りから依頼主が希望のものを選択したところで、本格的な作業に入りました。ここでは自分のアイデアや考え方を補完するために、コンセプトでスケッチを描きました。依頼主にプロジェクトを分かりやすく説明して、お互い納得して意思決定ができるので、このスケッチは良いツールになりました。
依頼主が選択したレイアウト、Kost•bar 提案4。
1階の間取りが決まったら、完成予想図や投影図を作成しました。これは、自分のアイデアがkost•barのコンセプトにどうマッチするかを可視化する重要なプロセスです。プロジェクトの肝は、新旧の融合調和です。歴史的な趣きや旧友のような心地良さを感じさせつつ、現代に息づく空間を作り出すことが求められました。
Wever & Ducré製の照明「Cork」のムードフォト
素材と家具のムードボード
店舗に残っていた家具を活用することは、私のコンセプトの重要な部分でした。現場を訪れることで、新しい空間と既存の家具をうまく調和させるイメージをつかむことができました。またムードボードを作成することで、依頼主に素材や色、さまざまな表面の感触を伝えることができました。
以下の縮尺1/20の図面は、AutoCADで作成してからPDFでコンセプトに取り込み、色を塗ったものです。
次の、写真のようにリアルなレンダリングは、Winner Design (Compusoft Group社のソフトウェア) で作成しました。
kost•barプロジェクトは現在建設中で、まもなく完成予定です。
今後、デザインでどのようなことをしたいですか?
私のインテリアデザインに対する情熱が、これからもインスピレーションを生み出し続け、この情熱で人々に驚きや喜びをもたらしたいと願っています。
アンナ・エッシュバッハ (Anna Aeschbacher): オーストリア、ザンクト・ペルデンのNew Design Universityでインテリアデザイン学科を専攻中。スイス出身でオーストリアのウィーン在住。Instagramは @annavondergasse、 Instagramのアートプロジェクトは @howviennalives。
インタビュー: Erica Christensen
翻訳: Wakana Nozaki
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